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政治

 
 

【内閣改造 土俵際の再出発】(下)本気だった「倒閣」

参院選投開票日の7月29日、極秘裏に今後の政権運営について話し合った安倍晋三首相と麻生太郎幹事長(左)=27日、東京・永田町の自民党本部

参院選投開票日の7月29日、極秘裏に今後の政権運営について話し合った安倍晋三首相と麻生太郎幹事長(左)=27日、東京・永田町の自民党本部

 27日に発足した安倍改造内閣は派閥領袖がずらりと並ぶ「挙党態勢」となった。安倍にとって必ずしも満足なものではなかったが、自民党内にはそれ以上に不満がくすぶる。

反安倍、参院選惨敗後に密談

 前参院国対委員長、矢野哲朗の入閣を見送られたため、参院議員会長の尾辻秀久は28日、首相官邸に乗り込み、不満をぶちまけた。閣僚から漏れた議員は、「泥船に乗らずにすんだ」と強弁するが、不信は広がる。安倍応援団といわれる若手・中堅にも改造は決して評判はよくない。

 そんな中、28日夕、都内のホテルに元官房副長官の園田博之、後藤田正純ら衆院議員6人が結集した。いずれも反安倍の急先鋒(せんぽう)だが、「カラオケ仲間」の与謝野馨が官房長官になったことを歓迎。退陣要求は当面控え、与謝野を通じて安倍に政策変更を求めていく戦術に切り替えることを決めた。

 親安倍も、反安倍勢力も足並みに乱れが出ている。自民党の歯車はどこから狂ったのか−。

 参院選前夜の7月28日午後、外相、麻生太郎の携帯電話が鳴った。安倍からだった。

 「ゆっくり話をしたいんですけど、今夜空いていますか」

 だが麻生は地元・福岡に戻ったばかり。「申し訳ないが、今夜は帰京できない。明日必ずうかがいます」

 安倍はこの時点で、参院選でどんな結果が出ようとも退陣しない腹を固めていた。もし自分が政権をほうり出すと、次期首相選出で党内が簡単に一本化するとは思えない。麻生、元官房長官の福田康夫、元財務相の谷垣禎一らで激しいバトルとなるだろう。そうなれば得をするのは誰か。安倍の脳裏に民主党代表の小沢一郎の顔が浮かんだ。

 安倍は平成5年の政治制度改革をめぐる自民党分裂こそが、日本経済をどん底に落とした「失われた10年」の原因だと考えている。その引き金を引いた小沢がどんな動きをするかは容易に想像がついた。

 「どんなに苦しくても踏ん張るしかない」。そう考えた安倍は、盟友であり、ライバルである麻生の意向だけは聞いておきたいと考えたのだ。

 翌29日午後4時、ワンボックスカーでひそかに公邸に乗り付けた。安倍が自らの意向を伝えると麻生の返事は明解だった。

 「衆参逆転など大したことない。安倍政権が打ち出した教育、安保などの大方針はちっとも間違っていないんだから胸を張って続投すべきだ。しっかり支えますよ」

 2人が会談中、公邸の電話が鳴った。幹事長の中川秀直だった。

 中川は国会近くのホテルで、元首相の森喜朗、参院議員会長の青木幹雄とともに今後の対応を協議していた。自民党の獲得議席を「40台後半」「40台前半」「30台」の3パターンに分類し、今後の政治情勢をシミュレートしていた。

 敗戦の色はすでに濃厚。報道各社からひそかにかき集めた出口調査の結果は最悪の「30台」を示していた。青木は「安倍君はまだ若い。今辞めれば次のチャンスが生まれる」。森もうなずいた。

 森に安倍の意向を確かめるように促された中川は、公邸に電話し、麻生がいることを知る。「なぜ麻生が…」。3人は首をかしげた。

 麻生と入れ違いに公邸入りした中川は「続けるのも地獄、退くのも地獄。イバラの道だ」と語り、「辞任もやむなし」と諭したが、安倍はきっぱりと言った。

 「解散のない参院の選挙で政権選択が行われることは基本的にはあるべきではない。大勢が判明した10時すぎにテレビで続投を表明する」

 2日後の7月31日。東京・汐留の高層ビルの一室で、参院選で瀕死(ひんし)の痛手を受けた安倍政権を揺るがす密談が繰り広げられていた。

 「メディア界のドン」といわれる人物が主催する秘密会合に顔をそろえたのは派閥領袖級の4人。元副総裁の山崎拓、元幹事長の加藤紘一、元幹事長の古賀誠の「新YKK」、そして元厚相、津島雄二だった。

 誰とはなく「安倍はもうダメだ。世論が分かっていない。一気に福田擁立でまとめよう」と声を上げると、新YKKとは一線を画していた津島も「あの人(安倍)には人の暖かみを分かる心がない。『正しいことさえ言っていれば人は分かってくれる』と思いこんでいる」と応じた。

 くしくも同じ夜、森は別の会合で「次の内閣改造のキーワードは『安心』と『安全』だ。失敗すると安倍は厳しい」と語り、福田、谷垣の入閣が政局のカギを握るとの見通しを示し、こう言った。

 「どんなに追い込まれても、安倍に解散はさせない」

 森のこの言葉は一気に広まった。加藤らは「福田擁立で各派がまとまれば森は乗ってくる」と手応えを感じた。この後新YKKが不気味なほどに沈黙したのは、それだけ「倒閣」が本気だったことを示していた。

 汐留での会合で慎重姿勢を崩さなかった古賀も3日朝、都内のホテルで開かれた財界とのセミナーでは多弁だった。

 「参院選は歴史的な大敗だが、首相の続投も歴史的な決断だ。内閣改造の結果をみて私たちもどう行動するか考えなければならない」。古賀は最後にこう結んだ。

 「衆院解散はびっくりするほど早くなる」

「福田擁立なら即座に総裁選」

 参院選後初の日曜日となった8月5日夕。森は東京・神山町の麻生邸を訪ねた。すでに麻生の幹事長就任のうわさが流れていた。

 森「君は安倍さんに人事を何か吹き込まれているのか」

 麻生「いいえ、まったくありません」

 森「君は今後も安倍さんを支えてくれるか」

 麻生「安倍政権は国家的に正しいことをやっていると思うから、私はそれに乗っているんです。参院選で負けたのは小泉改革のツケが最大の原因で、安倍さんのせいとはいえないでしょう」

 森に派閥領袖級の人物評などを次々に問われ、「おれの意向を探りに来たのか」と感じた麻生は、こう切り出した。

 「なんだかちまたには福田擁立なんて動きがあるらしいが、こんなものは絶対にのめない。安倍さんと総裁を争った私が支えるといい、『安倍だ』『安倍だ』とはしゃいだ連中がハシゴを外すなんてまったくおかしな話ですよ。そもそも福田さんは総裁選に出てもいないじゃないですか」

 森は「福田さんには安定感があるから…」と言ったが、麻生は頑として譲らなかった。

 「もし福田擁立という動きが本格化したら、即座に手を挙げて総裁選を要求します」

 森は幹事長時代から、加藤と敵対して「冷や飯生活」を送ってきた麻生に「目をかけてやった」との思いがある。麻生もその恩義を強く感じているが、この会談は2人にシコリを残した。

 一連の目まぐるしい動きは、「人を疑うことを知らない」といわれてきた安倍にも深い不信の念を芽生えさせた。

 「逆風の時でないと他人の本心はなかなか見えないものだね…」

 安倍は周囲にこう漏らしたという。

 参院選での大敗は、自民党内の人間関係をより複雑にさせた。これまで親しかった者がお互いに疑心を抱き、敵さえも手を組む状況が生まれつつある。党派を超えた動きは今後ますます活発化するとみられている。政界が新たなうねりにのみ込まれていくことは間違いなさそうだ。(敬称略)

 この企画は石橋文登、大谷次郎が担当しました。

(2007/08/29 07:36)

 
 
 

論説

 

 
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